若き日の思い出 2006北海道編 知床→サロマ湖

院長ブログの続き、書いてくださいよ。

と患者様に言われ、ハッと気づきました。
当時体感したままの感動を伝えたい、と考えているうちに良い表現が浮かんでこず後回しになり、今日まで忘れていたのです、申し訳ありません。

前回までのあらすじ

太平洋フェリーで苫小牧に荷下ろしされた私と愛機は、雨に打たれて新冠で人の優しさに触れ、霧の襟裳を突き抜けて十勝平野を爆走し、右ポケットの思い出の品々を捨て、白樺の屈斜路湖畔に到達、鹿の襲撃を逃れて小屋の床で体を軋ませながら目を覚ました。

若き日の思い出 屈斜路湖まで。

2006年7月12日 朝

 朝の雲は昨日までに比べればいくらか薄まっており、本来の青が広まってきているように思える。少なくとも、今日は雨に打たれることは無さそうだ。早朝だが、外からは出発の暖気をしているエンジン音も聞こえているし内側ではまだいびきをかくアザラシのような姿もある。先を急ぐも、のんびりするも自由。懐深い北海道は旅人に何も強制しない。
さて、今日がこの旅の最高到達点になるだろう。屈斜路湖から北に見える峰を越えれば、そこはキングオブ北海道、野生の王国、知床国定公園である。バイクに乗る者なら一度は北海道を目指し、一度は知床を目指す。それはまさに巡礼であるかのような、バイク乗りの聖地でもある。20歳代半ばにしてこの夢が叶ってしまうとは。自分の豪運と、昨日の鹿を回避した自分の運転技術に感謝である。

 エンジンを点け、一路北へ。程なくして林を抜けると、目の前にはオホーツク海が待っていた。しぶきを荒げ力強く寄せる波は自分の知る本州南の駿河湾とは全く違う。右に折れ海岸線に沿って進めばその先端の知床半島がぐんぐん迫ってくる。青い海。白い雲。涼しい風。すれ違うライダーが必ず出すピースサイン。こういうの待ってたんですよ私。
知床!Shiretoko!
ちくしょう、待たせやがって。
感動のあまりヘルメットの中で泣きそうになる。

同日 午前10時過ぎ

 知床の玄関口、斜里町に着いたのでアイスで休憩。ウニ丼だのイクラ丼だの高額な逸品が私の視線を吸い込んでいくが、ここは我慢、まだ入り口に着いたにすぎない。例えるならハワイ空港に到着した直後ヤシの実を買ってしまう、といった変なテンションに没入してしまうことは避けたい。知床は2005年にユネスコ世界自然遺産に認定されたので地元は大盛り上がりだ。(私が訪れたのは2006年)地図を広げて確認するが、この先、知床半島の先端まで陸路で行くことは出来ない。道がないからである。知床半島の先端に近づくなら遊覧船しかない。いつかは船に乗ってみたい。今回は時間がないが。(平成22年に知床五湖を橋でつないで歩く「知床ウォーク」が完成している。その後痛ましい事故があり遊覧船に乗る機会が失われてしまった……と思ったら別の会社は再開していた。安全基準を満たして運航するのなら喜ばしいことだ。)知床の先端へ向かうことは出来ないが、知床の峠を越えてさらに地の果てを目指すことにする。

 しばらく沿っていた海にいったん別れを告げ、再び山を登る。眼前には雄大な羅臼岳が迫り、急に空が近づく感覚になる。景色に飲み込まれていくようだ。先ほど買った新品「写ルンです」も絶好調である。(当時のインスタントカメラなので、2023年現在に見返すとなんとも荒いものの良い画が取れていると思う。路面が山奥に吸い込まれていくようだ。)

 

 

 

登った山を下り、太平洋側の羅臼に到着。ここでもウニ・イクラと魚卵の誘惑が私を襲うが、まだだ、まだ負けない。

同日 午後1時

 羅臼を経由してその奥、道の果て相泊へ到着。正真正銘、「日本の道の最北最東端」に到達した証と、甘美で軟派な魚卵の誘惑に負けず、男前MAXの「熊鍋」を食べた証を手に入れた。うーん、熊の肉はイノシシよりも獣臭い。だがそれが根菜の土の香りと重なってたまらなく美味しい。素晴らしい。ゼロ円マップの誘導に感謝したのはこの旅で初めてかもしれない。この野趣溢れる味と澄んだ空が、キングオブ北海道の象徴なのである。この日この味は、ずっと忘れないような気がする。知床には行ったことがあっても、相泊までは到達できていないバイカーも多いのではないか。一度は行ってみることをお勧めする。

同日 午後2時

 熊の肉を食べ、また一歩、熊に近づいた。道の果て相泊を出発し、知床横断道路を戻る。脇道には野鹿が草を食んでいる。昼間は道を空けてくれているようだ。峠から見下ろせばわずかながら雲海を拝め、その向こうにはおぼろげに北方領土。日本地図の上でしか見てこなかった現実をなんとなく実感する。手を伸ばせば届きそうな距離だが、現在は異国だ。風が冷たくなってきた。北海道の夕暮れは早い。網走刑務所の観光を考えていたが、知床に時間を食われすぎた。刑務所に入るのは(そういう意味ではないが)もう少し後でもいいだろう。

同日 午後5時

 斜里から海沿いを走り網走を越え、サロマ湖畔へ到着。サロマ湖の向こうに夕日が沈もうとする、ちょうど美しい時間にサロマ湖畔ユースホステルに到着。相部屋になったライダーが、明日知床に行く予定だ、と言うので、今日の知床体験を大げさに伝え、盛大にネタバレしておいた。
今日の寝床は温かいベッドである。人生初の知床体験を含む今日の一日は、四半世紀ほどを生きてきた自分にとって最高の日だったと言えるだろう。などと枕に向かって呟くと、心地よい疲労が私を深い睡眠へと誘い込んだ。

(更新、次がいつになるかわかりませんが。。。)

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